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アボット感染症アワー
ラジオNIKKEI 2010年10月29日放送

呼吸器感染症診療におけるCRPの有用性

昭和大学臨床感染症学 准教授 吉田耕一郎

CRP産生のメカニズム

 国内の日常診療では急性反応のマーカーとしてCRP測定が頻用されています。呼吸器感染症の診断や治療効果判定の際にも、CRPを測定して、得られた数値を臨床判断の参考とする事はよくあり、臨床上有用性の高い検査であると一般に考えられています。
 CRPは、他の生化学検査と同一スピッツに少量の末梢血を採取することで測定可能です。採血に侵襲の大きな手技を必要としません。また、簡便で正確、しかも迅速に測定結果を得ることが可能です。多くの病院では院内でCRPを測定可能なため緊急検査にも応用可能です。さらに保険診療報酬点数も16点と安価ですので、繰り返し測定してCRPの推移を見ていくことにも適しています。
 感染症がおこると、免疫細胞が活性化されてIL-1β、IL-6、TNF-αなどが産生され、これらの刺激を受けて肝臓でCRPが合成されます。したがって、感染症が引き起こされてからCRP値が上昇するまでには通常6-8時間程度のタイムラグを生じることが知られています。逆にCRPが低下する場合にも、発熱や白血球数よりも遅れて推移することを私たちは経験的によく知っているわけです。
 ただし、CRPは感染症だけではなく、感染症以外の炎症や腫瘍、あるいは外傷が生じた場合にも上昇してまいります。逆に急性炎症を生じていても抗ヒトIL-6抗体などを使用中の患者さんではCRPは上昇しませんし、肝硬変症例でもCRPが上昇しにくいことが知られています。したがってCRPを呼吸器感染症診療に応用する際には、CRP値が臨床経過をリアルタイムに反映しない点、あるいはCRPが感染症以外の病態でも上昇する点や、感染症があっても上昇しないこともある点などに注意して臨床判断を行うことが重要です。

CRP応用の有用性

 呼吸器感染症診療にCRPを応用する場合、どのような有用性が導き出されるでしょうか。肺炎の診断は通常、画像と微生物学的検査で行います。しかし胸部X線写真上、浸潤影が心臓の裏側や横隔膜下にある場合、十分にこれを確認できないことも少なくありません。また、非定型肺炎では白血球が増加しない症例もありますので、この様な場合には肺炎を疑うことが難しくなります。しかしCRP値高値をみて『何かある』と疑い、喀痰のグラム染色や胸部CTを実施することにつながれば、肺炎の早期診断が可能となったり、臨床診断の確からしさが向上するものと思われます。 
 欧米では、CRPを用いて細菌性肺炎を診断するという検討を行い、プロカルシトニンや白血球数などと比較して、CRP測定の臨床的有用性が低いと結論付ける論文も散見されます。しかしCRPは細菌性肺炎を診断するための検査法ではありませんので、このような検討そのものが臨床的意義を有さないと私には感じられます。私たちはCRPで肺炎を診断するのではなく、先に述べたようなCRPの特徴を理解した上で、肺炎をより効率的に診断するためにCRPを応用しているのです。
 次に、CRPを市中肺炎の重症度判定や、予後、および臨床経過の予測に用いる場合について考えてまいります。市中肺炎の初診時に測定したCRP値で予後を予測できる、という報告は海外に散見されます。また、CRP値10mg/dL未満では、早期死亡や人工呼吸管理が必要となるリスク、肺膿瘍や膿胸などの合併症のリスクを低減させるとするものや、治療開始後3日目のCRPが始めの数値の50%未満にまで低下していない場合にはこれらのリスクが増大するという論文など、様々な報告があります。しかし、CRPの動きは決してリアルタイムではなく、時間的ずれが生じます。したがって市中肺炎発症から初回CRP測定までの時間を考慮しないこれらの検討は、やや乱暴にも感じられます。 
 私どもは市中肺炎発症から初回CRP測定までの期間を、発症当日とその翌日、発症後2日目から4日目まで、発症後5日以上、の3つに区分して、日本呼吸器学会の成人市中肺炎診療ガイドラインの重症度分類とCRP値の関係をみてみました。発症後2日目から4日目までの群、および5日目以上の群では各々、軽症と中等症、軽症と重症のCRP値は有意差をもって軽症例で低い結果でした。これに対して、発症当日とその翌日に初回CRP測定が実施されたグループでは各々に有意差は認められませんでした。
 次に抗菌薬を用いて市中肺炎を治療した場合のCRPの推移を見てみると、経過良好であった症例であっても肺炎発症当日およびその翌日に、初回CRP測定が行われていた症例では抗菌薬開始後3日目には一旦CRP値の上昇が見られることが確認されました。これに対して発症後2日以上を経過してから初回CRP測定が行われた症例では抗菌薬開始後3日目にはCRPは低下してきています。すなわち、発症直後にCRPが測定された症例では、まだCRPが上昇しておらず、その後遅れて上昇するために、治療開始3日目のCRP値が臨床経過を反映していないことがわかります。しかし、この様な現象は日常診療でCRPを使用している一般臨床医にはよく知られていることであり、目新しいことではありません。とは言え、経験の少ない医師には臨床判断を行う上で、不安材料の1つになる可能性もあるでしょう。治療初期にCRPが一旦上昇しても、それのみで直ちに抗菌薬の変更や、増量を行うのではなく、解熱傾向、患者さんの元気さ、食欲、白血球数などを参考に総合的な判断を行うことが重要です。特に発症後直ちに治療が開始された症例ではCRP値に振り回されることのないよう、他の検査結果の検討や、十分な患者さんの観察が一層重要となります。

CRP値の改善率と予後予測の可能性

 これらの結果を踏まえて私たちは、全検討症例のうち、市中肺炎発症後2日目以降に初めてCRPを測定された症例213例を対象として、CRP値で予後良好群と予後不良群とを切り分けられるか否かを検討してみました。私たちの症例では、ROC曲線のAUCは0.908と良好でした。治療開始後3日目のCRP値が初回CRP値の90%以上を基準値とすると、予後不良群では13例中11例で3日目のCRP値は初回CRP値の90%以上を呈していました。逆に90%未満に低下していた症例はわずか2例のみでした。一方、予後良好群では200例中172例で90%未満に低下しており、10%以上の低下が認められなかった症例はわずか28例でした。90%の基準値では、感度は84.6%、特異度86.0%の成績で、発症後2日目以降に初回CRPを検査した症例では、治療開始3日目のCRP値の低下率である程度、予後を予測することが可能と考えられました。

まとめ

 これまでの要点をまとめますと、市中肺炎の臨床診断にCRPを応用することはできませんが、精査を実施するきっかけになる場合があると考えられます。また、重症度判定や予後予測、臨床経過判定には、ある程度CRPを応用可能ですが、発症早期の症例ではCRPの有用性が低いので、その評価には一層の注意を要します。この場合CRP以外のマーカーもあわせて評価することが重要です。
 CRP高値は感染症の存在を証明するものではなく、逆にCRP低値が必ずしも感染症のないことを証明するものでもないということを再認識し、抗菌化学療法を実施してもCRPが低下しない場合には、CRP 値に振り回されることなく、治療薬選択の失敗以外に、本当に細菌感染症があったのか、使用中の薬剤にアレルギー反応が出た可能性はないのか、など他の原因も検索しなければなりません。臨床医は常に、呼吸器感染症の確定診断を得るための努力を惜しんではなりませんし、CRP値に惑わされない確かな臨床能力を身に付けることが重要です。
 CRPを感染症診療に応用する際には様々な注意を要します。また用い方によっては臨床現場に混乱をもたらす事もあるようです。そのため最近、CRPを臨床現場で用いないという意見をお持ちの感染症専門家も一部にいらっしゃるようです。しかし例えば、胸部X線写真は、その読影に習熟した医師には、簡単な検査で多くの情報をもたらしてくれます。ところが読影に不慣れな医師には、見落としや Over diagnosis の原因となる場合も少なくありません。では、胸部X線写真は臨床に混乱を招く検査だとして、日常臨床で用いないという選択肢があるでしょうか?そんな非現実的な選択肢はありえません。読影力不足は、各々の医師の努力で克服されなければならなりませんし、CRP を十分に読めない医師は これを用いないのではなく、CRPを活用できるように努力するべきでしょう。研修中の若い医師に対しても、臨床の中でCRP の利点と限界をよく理解してもらい、CRP の有用性を高く引き出せる運用方法と評価方法を身に付けるよう教育すべきであると私は信じています。

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