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アボット感染症アワー
ラジオNIKKEI 2010年2月12日放送

溶連菌感染症最近の治療

千葉大学大学院 小児病態学 講師 石和田稔彦

 今日は、溶連菌感染症の最近の治療と治療後の管理についてお話させていただきます。

治療の動向

 A群β溶連菌(以下溶連菌と略します)は、咽頭炎・扁桃炎の代表的な起炎菌です。溶連菌による咽頭炎・扁桃炎治療として、リウマチ熱予防の観点から米国小児科学会と米国心臓協会では、ペニシリンG単回筋注投与あるいはその代替としてペニシリンVの10日間内服療法を推奨しています。また、アモキシシリンの10日間投与も可能としており、その治療の主体はペニシリン系薬となっています。このようなことから、日本では、溶連菌による咽頭炎・扁桃炎治療として、バイシリンGの10日間投与、あるいはアモキシシリンの10日間投与が推奨されてきました。
 一方、最近米国のCaseyらは、溶連菌による咽頭炎・扁桃炎に対する抗菌薬効果を検討した35の臨床試験についてメタ解析を行い、セフェム系薬の方が、ペニシリンVに比べ、臨床的有効率、細菌学的有効率、共にすぐれていると報告をしました。また、Caseyらは同様にセフェム系薬の4~5日間の短期療法とペニシリンV10日間療法の細菌学的効果を12の臨床試験からメタ解析し、セフェム系薬の短期療法の方が優れていると報告しました。これらの結果を受け、日本においても推奨される抗菌薬療法としてバイシリンG、アモキシシリン10日間療法に加え、第3世代経口セフェム系薬であるセフジニル、セフカペン、セフテラム、セフジトレンの短期療法が推奨されるようになってきています。

抗菌薬による除菌率の違い

 それでは、日本において溶連菌による咽頭炎・扁桃炎に対してペニシリン系薬の10日間療法とセフェム系薬の短期療法のどちらがより有効なのでしょうか?薬剤感受性に関してみると、これまで、日本で分離された溶連菌は、全てペニシリン、セフェム系薬共に感受性を示しており、耐性菌は認められていません。一方、溶連菌による咽頭炎・扁桃炎に対する各種抗菌薬の除菌率について検討した報告によると、アモキシシリン10日間療法による除菌率は89.1%であり、セフカペン 7日間療法の86.7%、セフジトレン7日間療法の94.3%とほぼ同等の割合でした。また、除菌不能例のうち、臨床的にも溶連菌による咽頭炎・扁桃炎を疑わせる所見を認めた臨床的再燃例の割合も、ペニシリン、セフェム系薬共に差は認められませんでした。

溶連菌による咽頭炎・扁桃腺炎再燃の原因

 溶連菌による咽頭炎・扁桃炎再燃の原因としては、服薬コンプライアンスの低下と集団からの再感染が、要因として考えられます。服薬コンプライアンスは、重要であり、処方した薬がきちんと内服されていなければ再燃する可能性が高くなります。小児の服薬コンプライアンスに関係する要素としては、服薬性、下痢などの副作用が少ないこと、投薬期間、1日の投薬回数などがあげられます。この点でセフェム系薬の短期療法は、有利に働くと考えられます。一方、溶連菌感染症は流行性疾患であり、流行中は学校や幼稚園などの所属集団内や家族内での感染が多く認められます。以前、私たちが千葉県南部の比較的閉鎖的な地域の小学校で溶連菌保菌率調査を行ったところ、冬季の小学校低学年の保菌率は高く45%にのぼることもありました。また、同じ地域で溶連菌による咽頭炎・扁桃炎患児の家族内保菌状況を調べると、患児の家族は兄弟を中心に多くの者が比較的同じタイプの溶連菌を保菌していることも判明しました。このように溶連菌感染の流行がある場合、集団から再感染する可能性が高くなります。その場合には、抗菌薬の投与期間が長い方が、治療の有効性が高くなります。
 溶連菌による咽頭炎・扁桃炎再燃の3番目の原因として、最近、抗菌薬の作用から逃れる溶連菌の存在が注目されています。その機序に関しては、主に2つのことが言われています。1つは細胞内侵入能をもつ溶連菌です。溶連菌のうちフィブロネクチン結合蛋白(F1蛋白)を有する株は細胞内に侵入し、ペニシリン系薬、セフェム系薬など、細胞内への移行が悪い薬の影響を逃れるとされます。2つ目はバイオフィルムを産生し、抗菌薬の作用を低下させる溶連菌の存在です。興味深いことにバイオフィルム産生菌はF1蛋白陽性菌でないものが多いとされます。このように細胞内侵入能をもつ菌やバイオフィルム産生菌に対しては、クラリスロマイシンをはじめとするマクロライド系薬の有効性が期待されます。マクロライド系薬は、ペニシリンアレルギーを有する患児に対する溶連菌による咽頭炎・扁桃炎の第二選択薬と位置づけられていますが、臨床的に再燃を繰り返すような溶連菌による咽頭炎・扁桃炎に対しても使用してみる価値があります。ただし、日本においては、マクロライド耐性の溶連菌が増加しており、その使用に際しては、薬剤感受性を確認することが必要です。

溶連菌感染症治療のポイント

 以上まとめますと、ペニシリン系薬の10日間療法とセフェム系薬の短期療法は、共に溶連菌による咽頭炎・扁桃炎の治療に有効です。服薬コンプライアンスの低下が懸念される場合には、セフェム系薬を、集団発生している場合には、ペニシリン系薬の10日間療法の有効性が期待されます。再燃を繰り返す場合には、感受性に留意し、マクロライド系薬を使用してみるのも良い方法であると思います。
 ところで、日常診療の中では溶連菌による咽頭炎・扁桃炎と診断した場合に、治療後の除菌確認と検尿検査がルーチンに行われている場合が多く見受けられます。その理由として、溶連菌による扁桃炎が腎炎やリウマチ熱の原因となる可能性があることがあげられます。しかし、溶連菌による扁桃炎治療後の検尿と除菌確認は本当に必要なのでしょうか?この点に関しては小児科医の間でも様々な意見があり、統一した見解は得られていません。
 ただし、最近の日本での報告をみると、リウマチ熱発症の危険性は極めて低く、溶連菌による咽頭炎・扁桃炎として適切な抗菌薬治療を受けた者が急性糸球体腎炎を発症するケースは少ない状況です。急性糸球体腎炎が重症化する例では、臨床症状が重症化する形で経過すると思われ、定期的な尿検査によって早期発見できたとしても数日早くなる程度と予想されます。そして、たとえ早期発見できたとしても、腎不全やネフローゼ症候群への進行を予防するための有効な治療手段はありません。このように考えると溶連菌感染後、全例に尿検査を行うメリットは少なく、腎炎の臨床症状を充分説明しておき、発症した場合に早めに医療機関を受診し、尿検査をはじめとする精査を受けるよう指示しておくことの方が大切と思われます。また、除菌確認に関しても、治療後無症状であれば、リウマチ熱の家族歴が存在する場合、家族内に劇症型溶連菌感染症など重症溶連菌感染症患者がいた場合、溶連菌による咽頭炎が施設内など狭い地域に流行している場合、適切な治療にもかかわらず数週間にわたって家族内に複数回溶連菌による咽頭炎・扁桃炎が生じている場合に限り実施し、全例に行う必要性は低いと思われます。

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