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アボット感染症アワー
ラジオNIKKEI 2008年10月17日放送

ヒト・メタニューモウイルスの集団感染

久留米大学感染医学講座臨床感染医学部門 講師 原好勇

新しいウイルスの発見

 呼吸器感染症の原因となるウイルスには、インフルエンザウイルス、エンテロウイルス、アデノウイルスを初めとして、ライノ、コロナ、RS、パラインフルエンザウイルスなどが報告されてきました。しかし最近、これらに加えて、ヒト・メタニューモウイルスや、ボカウイルス、コロナウイルス-NL63、マラッカ・ウイルスなど、新しいウイルスが続々と発見されてきています。
 ヒト・メタニューモウイルスは、2001年にオランダのグループにより発見されました。彼らは、以前に保存されていた原因不明の呼吸器疾患の子供の検体について調査し、この新しいウイルスを発見しました。2003年にSARSが流行したときには、その病原体として疑われた時期もありましたが、結局、普通の風邪ウイルスとされてきました。

ヒト・メタニューモウイルスとは

 このウイルスは、パラミクソウイルス科ニューモウイルス亜科メタニューモウイルス属に属するRNAウイルスです。ゲノムの大きさはポリオウイルスの約2倍の13キロベースで、マイナス一本鎖RNAに9個の遺伝子をコードしています。ウイルス粒子の表面には、F、G、SHと呼ばれる3種類のウイルス固有のタンパク質が突き出ています。これらは細胞の特異性や病原性に関係すると思われますが、詳しいことは現在解析中であります。
 血清型は1種類ですが、遺伝子配列によりA1、A2、B1、B2の4つの遺伝子型に分けられます。

ヒト・メタニューモウイルスの臨床像

 流行時期は冬から春先にかけてであり、私どもの小児科における経験では、インフルエンザウイルスやRSウイルスが流行した後、入れかわるように出てきました。しかし、夏にも検出される場合もあり、通年性とも言われています。
 感染は、飛沫または感染者との接触により起こります。潜伏期は4日から6日で、発症すると健常者では通常、風邪症状が現れます。ほとんどの人が10歳までに感染し、抗体を獲得すると言われています。ところが、子供や高齢者、臓器移植のハイリスク感受性者などでは、下気道症状が悪化して細気管支炎や肺炎になる場合があるので注意が必要です。特に子供の場合では、呼吸器症状が重症化して入院を必要とするケースが多く、RSウイルスに次いで多く検出されています。
 子供の症状はRSウイルスとよく似ているので、症状でお互いを鑑別することはほとんど不可能です。発熱、鼻汁、咳嗽がほとんどで見られ、喘鳴が2割から6割、下痢が数割で見られます。RSウイルスと比較すると、発熱がより高熱で、有熱期間が長く、また、入院期間が長引く傾向にあるという報告もあります。
 また、RSウイルスと重感染する場合もありますが、その場合、症状がひどくなるかについてはまだ結論が出ていません。現在ところ、ワクチンもなく、抗ウイルス薬もまだ開発されていません。また、迅速診断キットも開発されていないので、RT-PCR法が最も速い診断法です。
 メタニューモウイルスは当初、呼吸器疾患の子供から発見されたという背景もあり、小児科において注目されていました。しかし、集団感染の報告は、子供の間でも、高齢者の間でも、全くありませんでした。ところが、私どもは2005年に、福岡県のある高齢者施設において原因不明の呼吸器疾患が流行しているという知らせを受け、それを調査したところ、世界で初めてメタニューモウイルスの集団感染を報告することになりました。そして、2006年4月には、福岡県の別の高齢者施設で2名の死亡者が出ました。また、海外でも、本年(2008年)1月に、カナダの高齢者施設で2名の死亡者が出ました。
 このような報告が相次いだことから、メタニューモウイルスは、インフルエンザウイルスなどと同じように、集団感染を起こしやすいウイルスと認識されるようになりました。

集団感染事例から

 私どもが経験した集団感染事例を紹介します。
 まず最初は、ある高齢者施設内で細気管支炎や肺炎が流行しており、原因がわからないという報告が入りました。そこで、私どもは、症状のある人たち18名全員、平均年齢77歳について、その原因となる病原体について、詳しく調べていきました。
 まず、細菌検査はすべて陰性であり、細菌感染は否定されました。
 次に、市販の迅速キットとPCR法を使って、ウイルス検査を実施しました。ウイルスで一番疑わしかったのがパラインフルエンザウイルスだったので、パラインフルエンザンウイルス1から4型のすべてについてPCRを行いましたが、すべて陰性でした。
 さらに、患者からペア血清をとり、抗体価が上がっているかを調べてみたのですが、これもすべて陰性で、パラインフルエンザウイルスは否定されました。
 そして、ほかのインフルエンザウイルス、ライノウイルス、エンテロウイルス、RSウイルスについてPCRで調べてみてもすべて陰性でした。
 そこで、最後に、メタニューモウイルスのF遺伝子を標的としてPCRで調べたところ、18名中8名の鼻腔ぬぐい液からメタニューモウイルスの遺伝子が検出されました。
 そして、遺伝子配列を調べたところ、8名から検出されたウイルス遺伝子すべてがメタニューモウイルスのB1遺伝子型であり、これが今回の集団感染の原因であることが判明しました。
 さらに、本当にウイルス感染があったのかどうか確定診断を行うために、ペア血清のウイルス抗体価を蛍光抗体法で調べました。これは、あらかじめメタニューモウイルスに感染した培養細胞を用意しておき、そこへ患者の血清を反応させるという方法です。患者血清中にウイルス抗体が存在すれば、培養細胞内のウイルス抗原と反応して細胞が発色します。その発色の強さによって、抗体価を求めることができます。もし、回復期において抗体価が上昇していれば、ウイルス感染があったことを意味します。
 この方法で調べたところ、回復期で抗体価が上昇していた患者が8名いました。そこで、最終的に、8名においてメタニューモウイルス感染があったことが確定しました。

ヒト・メタニューモウイルス感染者の所見から

 このときの集団感染の臨床症状を見てみると、ほとんどの場合、呼吸器疾患が重症化しており、3名は肺炎、4名は気管支炎または細気管支炎でした。
 発熱の平均は38.7度と高熱で、鼻汁、湿性がいそう、咽頭痛、痰がほとんどで見られました。しかし、高齢者だからといった特有の症状は見られませんでした。
 この集団感染の発生前に外泊した人が1人おり、この人が最初に発症していることから、この人がインデックスケースであり、外から持ち込んだ可能性があると予想されました。
 また、この集団感染において興味深いことが一つありました。それは、感染時から1280倍と高い抗体価を持っていたにもかかわらず発症した人が2人いたことです。このことから、メタニューモウイルスの場合、抗体をある程度持っていても、それが必ずしも感染を防御するには十分でないということが考えられます。今回の集団感染が起こった病室を見てみると、すべて同じフロアで起こっており、ある病室では4名もの感染者が出ています。施設内で感染の拡大をとめるのに一番効果的な方法は、それまで施設内で日常行われていた集会を禁止して、高齢者同士の接触の機会を減らすことでした。

おわりに

 以上のように、高齢者がメタニューモウイルスに感染すると、肺炎に至る場合があり、最近は死亡例も報告されてきています。現在のところ、ワクチンもなく、迅速診断キットもありませんが、呼吸器疾患でウイルス感染症が疑われ、かつ、既存の迅速診断キットでインフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルスなどが否定された場合にはメタニューモウイルスを疑い、積極的にPCR検査を行い、感染者の特定を急ぐべきであると思われます。
 このウイルスは飛沫または接触により感染するので、もし感染者が出た場合は、非感染者との接触の機会を抑え、マスクの使用と手洗いを徹底し、感染の拡大を最小限に抑えることが大切であります。

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