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Abbott A Abbott Japan Abbott: A Promise for Life
アボット感染症アワー
ラジオNIKKEI 2008年9月26日放送

マクロライド療法の現状と将来

結核予防会複十字病院 院長 工藤翔二

マクロライド抗生物質の登場

 マクロライド抗生物質は、1952年にエリスロマイシンが発見され、臨床に用いられるようになって以来、すでに50年以上経ちますが、今日まで感染症治療において重要な役割を果たしてきました。呼吸器感染症では、とりわけ細胞内寄生菌といわれるマイコプラズマやレジョネラ菌、肺炎クラミジアなどの感染症では、なくてはならない抗生物質です。また、最近、増え続けている非結核性抗酸菌症、特にマイコバクテリウム・アヴィウム・コンプレックス(MAC症)では標準治療としてクラリスロマイシンが、リファンピシン、エサンブトールと併用して用いられます。
 さて、本日のテーマであるマクロライド療法とは、いまお話した抗菌薬としてのマクロライド治療ではなく、マクロライド系抗生物質が持っている、抗菌作用以外の特異な薬理作用を役立てる治療法のことです。ところで、マクロライド抗生物質は、その基本骨格であるラクトン環によって、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシンなどの14員環マクロライド、アジスロマイシンのような15員環マクロライド、そしてジョサマイシンなどの16員環マクロライドなどに分類されますが、マクロライド療法に用いられる抗生物質は、14員環と15員環のマクロライドです。

マクロライド療法の確立

 このマクロライド療法のきっかけは、ご承知のようにわが国やアジア地域に集積するびまん性汎細気管支炎(DPB)と呼ばれる、難治性の気道感染症に対する治療でした。DPBは、慢性気道感染症で、初期にはインフルエンザ菌の持続気道感染状態にありますが、このインフルエンザ菌をターゲットに、ペニシリンやセフェム系抗生物質で治療すると、インフルエンザ菌は除去できても、今度は緑膿菌感染が起こってきます。1970年代、私たちは次第に呼吸不全が進行してゆく、こうしたDPBに対して、悪戦苦闘しておりました。私たちが、偶然のきっかけから、このDPBにエリスロマイシン600mg程度の少量長期療法が、きわめて有効であることを見い出したのは、1984年のことです。その後、DPBには、エリスロマイシンのほかに、クラリスロマイシンやロキシスロマイシンなどの14員環マクロライドや、アジスロマイシンなどの15員環マクロライドが、同様に有効であることがわかってきました。そして現在では、わが国はもとより、2000年の米国内科専門医試験に出題されるなど、マクロライド療法は世界的に認められた治療法として確立されています。

マクロライド療法の作用メカニズム

 マクロライド療法が見いだされてから、20年以上経ちますが、この間の最も大きな研究テーマは、その作用メカニズムでした。エリスロマイシン療法における臨床的な観察から、当初からマクロライドが抗菌薬として作用しているのではないことが認識され、特に気道の炎症病態に関わる作用が注目されました。主なものをあげますと、第1に、マクロライドは気道上皮細胞の細胞膜にあるCl-チャンネルを阻害して、水分泌を抑制します。また、ムチンの分泌も抑制します。その結果、気道の過剰分泌が抑制されて、喀痰の量が減少します。第2には、好中球を炎症局所に誘導するIL-8産生を抑制して、好中球による慢性気道炎症を改善させます。そのメカニズムとして、気道上皮細胞におけるIL-8のmRNAの発現に関わるNFκBやAP-1といった転写調節因子を抑制することが明らかになっています。 
 一方、細菌の側では、菌を殺して除去するわけではありませんが、例えば、緑膿菌のバイオフィルム形成や緑色の色素であるピオシアニンの産生を抑制するなど、細菌の機能に影響を与えて、弱毒化することがわかっています。そのメカニズムとして、細菌相互の情報伝達機構であるquorum sensingといわれる機構を抑制するためであることも、わかってきました。
 こうしたDPBに対する治療法の中からわかってきた、マクロライドの気道粘膜の慢性炎症病態を改善させる作用は、マクロライドの抗菌活性以外の新しい作用(novel action)として、新たな臨床応用と研究領域を広げることとなりました。最初に応用されたのは、耳鼻科領域の重要な疾患である慢性副鼻腔炎に対する治療です。DPBなどの呼吸器疾患とは違って、慢性副鼻腔炎では3ヶ月~6ヶ月と、比較的短期の治療期間です。一方、欧米では、膿胞性線維症(cystic fibrosis)に対する治療に応用されています。マクロライド療法の国際化ともいえましょう。

マクロライド療法の新たな展開

 最近、マクロライド療法は、慢性気道炎症性疾患を超えて、新たな展開を見せつつあります。一つは、COPDの急性増悪に対する軽減効果と、その原因としてのライノウイルス感染の抑制効果です。東北大学山谷睦雄教授らは、約100名のCOPDの患者をエリスロマイシン投与群と非投与群の2群に分け、12ヶ月の観察で、エリスロマイシン投与群では、感冒罹患の回数と急性増悪の回数が約1/4に減少することを報告しました。さらに、COPDの急性増悪の原因となる感冒の起因ウイルスであるライノウイルスの感染に関して、ウイルスの気道上皮への接着に関わる接着分子ICAM-1の発現と、細胞内でのウイルスの増殖に関わる酸性エンドゾームが、エリスロマイシンによって抑制されることを、実験的に明らかにしました。
 もう一つは、臨床におけるインフルエンザの軽減効果と動物実験における致死的インフルエンザ感染の抑制です。
 小児のインフルエンザ肺炎について、マクロライドを投与したほうが、他の抗生物質の投与した場合より、発生頻度が低くなることや、抗ウイルス薬とマクロライドを併用した方が、抗ウイルス薬単独投与よりも、症状の軽減が早くなることなどが報告されています。また、熊本大学佐藤圭創准教授らのグループは、マウスを使ったインフルエンザウイルスH2N2の感染実験において、86%もの致死率が人の常用量に相当するエリスロマイシンの投与によって、58%、43%と、投与量に応じて低下することを明らかにしました。   
 重要なことは、そのメカニズムとして、生体側のインターフェロンγの産生抑制など、過剰な炎症病態の抑制にあることを示唆したことです。
 今日、新型インフルエンザへの対策が急がれていますが、これまでのワクチン接種による予防と、抗ウイルス薬による治療とともに、ウイルス感染に対する生体の過剰な反応を抑制して、重症化を防ぐという第3の治療戦略が登場するかもしれません。

おわりに

 このようにマクロライド療法は、DPBやCystic fibrosis など特殊な疾患から、COPDの急性増悪やインフルエンザ感染など、より社会的にインパクトのある領域における、臨床応用の可能性と期待が高まっており、マクロライド療法が新たな時代に入ろうとしていることを感じさせます。そして、今のところは、本来は抗菌薬であるクラリスロマイシンなどの、マクロライドを使っておりますが、現在、抗菌活性のない抗炎症作用に特化した新たなマクロライドの創薬への試みが進められており、将来の重要な課題となっております。

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