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日本大学小児科学分野 准教授 住友直方
小児の市中肺炎でマイコプラズマは主要な原因微生物の一つです。小児マイコプラズマ肺炎の治療は、マクロライド系抗菌薬が第一選択薬として推奨されていますが、マクロライド耐性マイコプラズマの増加も報告されており、既存のマクロライド系抗菌薬の臨床的有用性についての検証が必要とされています。そこで小児マイコプラズマ肺炎に対するマクロライド系抗菌薬、クラリスロマイシンの臨床的有用性の検討を行いました。
対象は初診時に12歳以下で、患者及び患者の保護者に文書による同意が得られ、臨床症状および所見よりマイコプラズマ肺炎が疑われた29例のうち、症状の経過を観察出来た27例です。これらの症例を、マイコプラズマIgM抗体が陽性であった陽性群16例と、IgM抗体が陰性であった非陽性群11例に分けて、薬剤の効果を比較検討いたしました。
方法としては、対象にクラリスロマイシンドライシロップを10~15mg/kg/day、1日2~3回に分けて経口投与しました。他の抗菌薬は併用しませんでしたが、鎮咳剤、去痰剤などの対症療法や、基礎疾患のある患者に対する基礎疾患の治療薬は併用可能としました。
肺炎の定義は2003年日本化学療法学会の小児科領域抗菌薬臨床試験における判定基準に従いました。
臨床効果については、前述の「小児科領域抗菌薬臨床試験における判定基準」の臨床効果判定基準に従い、主治医の判断により著効、有効、やや有効、無効の4段階で判定しました。
肺炎マイコプラズマ陽性群では有効以上が87.5%(14/16例)でした。また非陽性群でも63.7%(7/11例)に有効以上の効果がありました。
陽性群の経時的臨床効果を項目別に比較したところ、発熱は投与開始後平均1.4日で解熱し、全例1週間後に解熱しました。
また咳嗽は投与開始後1週間で43.8%が消失しました。
喘鳴は投与開始後1週間でほぼ消失し、呼吸困難、胸痛は投与開始後3日間で、胸部ラ音は投与開始後1週間で87.5%が消失しました。喀痰は投与開始後1週間で62.5%が消失し、元気のなさは投与開始後1週間で93.8%が消失しました。
薬剤の服用性は、「非常に飲みやすい」14%(4例)、「飲みやすい」29%(8例)、「普通」49%(14例)、「飲みにくい」4%(1例)、「のめない」4%(1例)であり、「ふつう」以上が93%と良好でした。
有害事象としては、下痢が一例に認められましたが、便培養にて大腸菌が検出されたため、クラリスロマイシンドライシロップとは無関係と判断されました。
1.マイコプラズマ肺炎に対するクラリスロマイシンの有効性
マイコプラズマ肺炎は適切な抗菌療法が行われない場合、発熱持続期間は約8日と言われています。抗菌療法として、第一選択薬にはマクロライド系抗菌薬が使用されていますが、マクロライド耐性マイコプラズマによる市中肺炎も増加しています。Suzuki等はマクロライド感受性マイコプラズマ肺炎では投与開始後平均1.4日で解熱するのに対し、マクロライド耐性マイコプラズマ肺炎では解熱までに4.3日要し、感受性菌で有意に解熱期間が短いと報告しています。今回の検討では血清学的にマイコプラズマ肺炎と診断された症例では投与後平均1.4日で解熱し、7日以内に全例解熱しました。これは、Suzuki等のマクロライド感受性マイコプラズマ肺炎の成績とほぼ一致しており、未だクラリスロマイシンはマイコプラズマに対する感受性を維持している結果と考えられます。
またマイコプラズマ肺炎の特徴的な症状である咳嗽は無治療では発症後2週間で悪化し、その後3~4週間続くと言われています。今回の検討では咳嗽は投与開始7日後に40%以上消失しており、投与終了時に40%に咳嗽が残ったものの、強い咳嗽を有する症例はいませんでした。以上より、現在でもクラリスロマイシンはマイコプラズマ肺炎に対する臨床的有用性があることが示唆されました。
2.非定型肺炎とクラリスロマイシン
血清学的にマイコプラズマ肺炎と確定できなかったIgM抗体陽性疑い群、及び陰性群でも有効例はそれぞれ66.7%(4/6例)、60%(3/5)であり、マイコプラズマ以外の病原微生物もしくはウイルスの原因が考えられる肺炎においても、有効であることが示されました。
尾内等は本邦の小児急性気管支炎の原因菌を検索したところ、肺炎マイコプラズマが12.5%、肺炎クラミジアが36.3%、細菌が48.8%、混合感染が2.5%であったと報告しています。またBanba等は小児市中肺炎の原因菌を検索したところ、肺炎マイコプラズマが40.4%、肺炎クラミジアが2.1%、両者の混合感染が0.7%で、それ以外には非定型病原体は検出されなかったと報告しています。
以上より、小児の市中肺炎では、少なからず肺炎クラミジア感染、細菌感染が関与しており、クラリスロマイシンは肺炎球菌、インフルエンザ桿菌だけでなくクラミジアにも有効であることより、マイコプラズマと確定できない肺炎にも有効であったと考えられます。
通常、乳幼児では細菌性肺炎と非定型肺炎を臨床症状だけで判断するのは困難です。今回の検討においてもマイコプラズマ肺炎を疑い、血清学的検査を行いましたが、診断率は48.3%と半数以下でした。一般に小児の肺炎は、原因菌の同定と平行して治療を開始することが多く、肺炎マイコプラズマの感染が否定された肺炎においても一定の効果を有するクラリスロマイシンは肺炎治療の初期治療に有用であると考えられます。
3.マクロライド系抗菌薬とインフルエンザ肺炎
また、マクロライド系抗菌薬であるエリスロマイシンは、動物実験でインフルエンザに感染させたマウスの死亡率を有意に減少させるとの報告があります。エリスロマイシンはインターフェロンガンマなどの炎症性サイトカインを抑え、NO合成酵素(NOS)を誘導することにより、抗炎症作用を発現すると言われています。同様のマクロライド系抗菌薬であるクラリスロマイシンも、ウイルス感染時の抗炎症作用により、間接的に効果を発揮することが期待されます。
4.最後に
今回使用したクラリスロマイシンドライシロップは2006年6月に服用性の改善のため製剤の改良が行われていますが、それ以後に臨床的有用性を検討した報告はありませんでした。従来からマクロライド系抗菌薬は苦いなどの理由で服薬コンプライアンスの低下が指摘されていましたが、服用性の改善により、普通以上に飲めた患者が93%であり、服用に難渋する小児においても高いコンプライアンスが期待できると考えられます。