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東京薬科大学 薬学部 教授 太田伸
医療技術の進歩により医療レベルは年々高度化してきており、その内容も複雑になってきました。その様な中で、医療現場の体制も大きく変わりつつあります。
各診療科領域では、専門医、薬剤師、看護師、検査技師などの専門医療職が連携・協力して治療に携わる統合的治療体制の確立が重視されるようになってきました。つまり、チーム医療が行われるようになって来たわけです。一方、薬剤師は「くすりの専門家」として、ファーマシューティカルケアを実践することにより、医薬品の適正使用を広く推進するジェネラリストであります。その上で、特定領域における高度な専門知識と技術を持ち、豊富な経験を備えた「専門薬剤師」が必要となってきました。以上の理由から平成15年に院内感染有識者会議におきまして、「院内感染対策専門薬剤師の育成」が提言されました。平成17年日本病院薬剤師会は、感染制御専門薬剤師制度を立ち上げ現在に至っています。
感染制御チームの中で薬剤師の果たすべき役割は極めて重要であることは周知の通りであります。感染制御にどのようなことが薬剤師に期待され、どこまでできるのか。その役割を期待どおり実行するためにはどのような知識が必要でしょうか。薬剤師が感染制御において抗菌薬や消毒薬の適正使用を推進する原動力でなくてはならないために薬剤師として果たす役割を考えてみたいと思います。
まず始めに感染制御専門薬剤師認定申請資格について、お話ししようと思います。申請資格は以下8項目よりなっております。
以上の3項目は基本的な事項であり、他の専門薬剤師認定制度と共通しています。
4~6項目目は、感染制御を目的とした活動状況についての項目です。特に6項目目は、学会活動、論文の作成も要求されていますので、学術的な活動も必要ということです。
以上8項目が感染制御専門薬剤師認定制度申請項目です。毎年、講習会、認定試験が1月に行われてきました。これまで2006年から2008年までの3年間で129名の感染制御専門薬剤師が認定され、全国で活躍しています。また、認定の更新についても研修単位を5年間で50単位の取得、学術活動での条件も決まっております。
まず感染制御専門薬剤師として習得しておかなければならない知識とはどの様なものなのかをお話します。初めに感染症の原因となる微生物の基礎的なことはもちろんのこと専門的知識の習得が必要と考えます。特に病原微生物についての特徴などは感染の伝播経路やどのような感染症になるかなどの知識とともに必要です。つぎに抗菌薬や消毒薬について、また感染症時に抗菌薬以外に使用される薬剤やTDMを利用した投与設計のための学習も必要になります。その他、スタンダードプレコーションで大切な手洗い方法や消毒薬の使用方法など多岐にわたる知識の習得が必要と考えます。
感染制御専門薬剤師の目指すところの役割について考えてみますと病院組織の中で感染制御を担当する感染対策委員会(ICC)および感染対策チーム(ICT)の中核としてのリーダーシップをとっていくことが要求されます。特に薬剤に関する部分では、医師をサポートする上でも重要になります。これらは、ICTによる感染サーベイランス活動や適切な消毒薬の選択および抗菌薬の適正使用の推進役としての役割が期待されます。その中で適切な抗菌薬の選択、適正使用は極めて重要な課題であります。
具体的な役割としては、感染症の発生時において現場への介入、教育指導、抗菌薬・消毒薬の使用状況把握、消毒薬の抗菌効果の評価、病棟などでの注射薬無菌混合作業の看護師さんへの指導、耐性菌等の感染関連情報の収集・蓄積・提供・指導、感染防止マニュアル・ガイドラインの作成・更新、TDMと投与設計、その他ワクチン等の感染予防に必要とされる薬剤の確保および管理など多岐に渡ります。特に専門薬剤師が抗菌薬の適正使用に関わることは、感染症治療効果をより高める上で重要なことと考えます。抗菌剤処方のチェックやコンサルテーションであります。これらは、種々のサーベイランスに基づいたデータを活用し、薬剤選択や投与量の設定に関与します。また薬剤部では、抗菌薬使用状況を病棟別に把握できるようにし、検査部とも連携して細菌感受性結果から適正な薬剤が使用されているかを確認するシステムの構築が必要となります。これらから得られるデータはアウトブレイク時には、感染対策に役立ち問題点も確認できます。また抗MRSA薬の使用には、許可制にするなどの制限を設ける事が必要な時もあるでしょうから感染対策に関わっている医師の協力を得ながら実施することが必要であります。さらにバンコマイシン、アルベカシン、テイコプラニンなどのTDMを必要とする抗菌薬は、医師へ薬剤処方時と同時に血中濃度測定依頼ができるようなシステムも考え、抗MRSA薬のTDM解析結果をもとに感染患者のPK/PDを把握し、適切な抗菌薬投与設計をし、医師に提案することが望まれます。また、カルバペネム系薬についても、専門薬剤師が適正使用の推進を啓蒙することにより緑膿菌の多剤耐性化防止などに貢献することが求められます。
今後、感染制御専門薬剤師はICTというチーム医療の中で、よりレべルアップした最新の感染制御の知識を身につけ、薬剤の適正使用に専門性を発揮しながら、エビデンスに基づいた感染制御の活動が期待されています。