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国立感染症研究所 ウイルス第一部 部長 倉根一郎
黄熱は黄熱ウイルスの感染によっておこるウイルス性出血熱です。日本においてはこれまで発生がないこと、またワクチンがあることから、世界的にはすでに過去の病気という認識をもたれがちですが、黄熱は現在でも世界的には大きな問題となっている感染症です。
黄熱ウイルスはデングウイルス、日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス等とともにフラビウイルス科、フラビウイルス属に属するウイルスです。直径40~50 nmでエンベロープを有する球形のウイルスです。
エンベロープは糖蛋白(E蛋白)と膜蛋白(M蛋白)の2種類の蛋白を有し、内部には直径30nmのコア蛋白よりなるカプシッドを有します。フラビウイルスは抗原性から8つの抗原群に分類されているが黄熱ウイルスは他のフラビウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルスと近い抗原性を示さず未分類とされています。
黄熱は現在、サハラ以南のアフリカと南米のみで発生が見られます。アフリカにおいては近年、年間5000例の報告があった年もありますが変動が大きく、一方、南米では年間50~300例の報告があります。しかし、いずれの報告数も実数よりかなり少ない数であり、世界的には年間20万人近い患者発生があるのではないかと推察されています。
アフリカ大陸およびアメリカ大陸で分離された黄熱ウイルスはE遺伝子配列から2つの遺伝子型(Genotype)に分類されています。西アフリカとアメリカ大陸で分離された黄熱ウイルスがいずれもII型の遺伝子型を有することから、おそらくこのウイルスが奴隷の移動によって、西アフリカからアメリカ大陸に侵入していったのではないかと考えられます。
黄熱ウイルスはアフリカにおいてはアフリカシマカ、ネッタイシマカ、南米においてはヘマゴグス属の蚊によって媒介されます。ヒトは黄熱ウイルスに感染した蚊の吸血により感染します。アフリカにおいてはヒトが自然宿主となっておりウイルスは蚊―ヒト―蚊のサイクルで維持されています。一方、南米においては黄熱ウイルスは森林で蚊―サル―蚊のサイクルで維持されており、ヒトは森林に入ったときに感染蚊に吸血されることにより感染することが多いようです。蚊―ヒト―蚊のサイクルで維持されうるということは、黄熱ウイルスがヒトの体内でよく増殖するということを反映しています。
黄熱の症状は典型的には肝臓、腎臓、心筋の障害や出血傾向を主症状とし、高い致死率を示します。しかし、不顕性感染の率が高く、顕性感染と不顕性感染の率は1:2~1:20と考えられています。ヒトは通常感染後3~6日の潜伏期を経て発症しますが、症状は急性熱性疾患から致死性の出血熱まで多様です。通常の症状は以下のとおりです。突然の発熱で発症し、悪寒、倦怠感、頭痛、腰背部痛、全身の筋肉痛、悪心、めまいを伴います。この時期は3~4日間続くが、感染期と呼ばれ、ウイルス血症が認められます。これらの症状はいったん消失し2~24時間後の緩解期となります。患者によってはこのまま症状が消失し回復します。典型的には緩解期に続き、発熱、悪心、嘔吐、上腹部痛、黄疸、腎機能不全(高度の蛋白尿、乏尿)、出血傾向(鼻出血、歯肉出血、下血、点状出血、斑状出血等)が出現します。この時期は中毒期とよばれますが、この時期にはウイルス血症は存在せず、患者は発症から7~10日で死亡します。致死率は10~20%です。
疫学的状況として、近年特に注目されることとして南アメリカにおける黄熱の流行があげられます。2007年から今年にかけてブラジルにおいて黄熱の流行が報告されています。さらに、2008年に入りパラグアイ及びアルゼンチンにおいても黄熱の流行が報告され、これらの流行では急遽多数の国民への黄熱ワクチンの接種が行われました。一方アフリカにおいても2005年スーダン、コートジボアール、マリ、2006年トーゴ、コートジボアール、2007年トーゴ、2008年に入り中央アフリカ、リベリアにおいて黄熱の発生が報告されています。
黄熱の確定診断は実験室診断によってなされます。病原体診断としてはウイルス分離同定、遺伝子診断としてPCR法、血清診断としてELISA法による特異的IgMおよびIgG抗体の検出、赤血球凝集阻止(HI)反応や中和反応による特異的抗体の検出が行われます。PCR法による実験室診断においては主にE遺伝子が用いられています。特に特異的IgMの検出は有効な検査法として用いられます。IgG抗体を検出する場合には急性期と回復期で4倍以上の抗体価の増加を示す必要があります。IgMは通常一点でも確定診断であるとされますが、IgM抗体でも回復期での増加を示すことがより確実な診断には望まれます。他のフラビウイルスとの鑑別は、中和抗体はウイルス特異性が高いことから、血清学的には中和反応による特異的抗体の検出によってなされます。
黄熱の予防はワクチン接種がもっとも効果的な方法です。現在使用されている黄熱ワクチンは17D株を用いた生ワクチンです。本ワクチンは、安全で高い免疫原性を有するワクチンとして世界中で使用されており、接種後10年間は防御が保証されています。アフリカの多くの国においては、入国にあたり黄熱ワクチンを10年以内に接種していることがイエローカードとして提示されることが求められるので、アフリカへの渡航時にはこの点注意する必要があります。一方、近年本ワクチン接種後に多臓器不全で死亡した例が米国や南米から報告されています。黄熱ワクチン17D株は、肝臓に対する親和性を失っていますが、中枢神経への親和性は弱いながらも有しています。従って、今後高い免疫原性を維持し、病原性のより低い黄熱ワクチンの開発も期待されます。さらに近年、黄熱ワクチン17D株をベースに日本脳炎ウイルスやデングウイルスとのキメラウイルスを用いた日本脳炎ワクチンやデングワクチンの開発も進められています。その意味からも、黄熱ワクチン17D株の弱毒性や病原性を規定する遺伝子の解析が一層進展することが期待されます。そのほか、予防として流行地域ではできる限り蚊に吸血されないよう注意することが必要です。黄熱は現在でも世界的に大きな問題であるという認識を持つ必要がありますし、今後、輸入患者の可能性も含めて注目すべき疾患と言えます。