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Abbott A Abbott Japan Abbott: A Promise for Life
アボット感染症アワー
ラジオNIKKEI 2008年7月11日放送

プロカルシトニンによる感染症の診断

日本医科大学 救急医学 准教授 久志本成樹

 敗血症は集中治療を要する患者さんなどの重症病態における最大の死亡原因であり、その診断と治療開始の遅れは転帰の悪化につながります。現在、敗血症の診断は、(1)感染の証明、(2)体温、白血球数、心拍数と呼吸数で定義される全身性炎症反応症候群(SIRS)によって行うものとされています。しかしながら、敗血症によって生じる全身性炎症反応とそのパラメーターであるCRP、白血球数、炎症性サイトカインなどの変化は、全身性炎症反応の大きさを示すものですが、その原因が感染であることを示すものではありません。
 プロカルシトニンは、敗血症が疑われる病態において、その原因が細菌感染症によることを示すとともに、その重症度を反映するマーカーであることから、近年、注目を集めています。

プロカルシトニンとは?

 プロカルシトニンは、116個のアミノ酸からなる分子量約13kDaの蛋白質であり、カルシウム代謝に重要なホルモンであるカルシトニンの前駆物質ですが、カルシウム代謝に関するホルモン活性を持ちません。正常状態ではプロカルシトニンは甲状腺のC細胞で産生され、代謝によりホルモン活性を持つカルシトニンとして甲状腺外へ分泌されます。健常人では甲状腺で生成されたプロカルシトニンは血中へ遊離されません。一方、重症感染症においては甲状腺外でプロカルシトニンが産生され、このプロカルシトニンは安定したまま血中に分泌され、血液中においてカルシトニンに分解されることはないとされます。

産生部位と体内動態

 生理的状態におけるプロカルシトニンの産生部位である甲状腺の摘出患者で、感染や外傷後にそのレベルが上昇することが報告されており、重症細菌感染症などで増加するプロカルシトニンは甲状腺以外の組織に由来することが示されています。プロカルシトニンの産生部位とそのメカニズムに関しては必ずしも明らかにされていませんが、全身が内分泌組織として分泌すべく変化するものとされています。
 炎症性パラメーターとして最も一般的であるCRPと比較してみますと、その血中レベルが上昇するまでの反応時間は、CRPの6時間に対して、2~3時間と短く、また、半減期は20から24時間とCRPより長いものの、治療に対する反応性はより速やかであるとされます。しかしながら、産生刺激、産生細胞、体内動態に関しては、必ずしもその詳細が明らかにされているとはいえません。

プロカルシトニンは敗血症における単なるマーカー?

 ハムスターを用いた大腸菌腹腔内投与による敗血症モデルの検討から、プロカルシトニンのメディエーターとしての意義が基礎的に検討されています。健常ハムスターへの投与では致死的病態に至ることはありませんが、大腸菌腹腔内投与による敗血症ハムスターへの投与ではその死亡率を有意に増加させます。さらに抗プロカルシトニン抗体を含む血清を敗血症ハムスター投与するとその死亡率を低下させ、病態形成への関与が考えられますが、どのようにかかわっているかに関しては今後の検討が待たれます。

全身性細菌感染症のマーカーとしての有用性

 1993年にLancet誌に、プロカルシトニンに関する多くの示唆に富む知見が報告されました。(1)重症細菌感染症でプロカルシトニンは著明に上昇し、治療により速やかに低下する、(2)局所細菌感染では異常高値を示さない、(3)ウイルス感染のみでは高値を示さない、(4)熱傷後の上昇は細菌感染合併と関連する、さらに、(5)プロカルシトニンレベルの如何に拠らずカルシトニンは正常範囲である、などの知見が報告されています。現在まで、プロカルシトニンはIL-6、IL-8やCRPなどと比較しての有用性が多く報告され、細菌感染症の鑑別診断に優るものと考えられています。

真菌感染、ウイルス感染症診断における有用性

 真菌感染症単独ではプロカルシトニンは著しい上昇を示さないとされています。カンジダやアスペルギルス感染では、その上昇は軽度にとどまり、著明な上昇を示す場合には真菌感染症は否定的であり、深在性真菌感染症診断での有用性は限定的と考えられています。
 ウイルス感染に関しては多くの検討が行われており、成人の髄膜炎における細菌性とウイルス性の比較、38.5℃以上の発熱を伴う小児例における細菌感染とウイルス感染の鑑別など、ウイルス感染症ではプロカルシトニンは著明な上昇を示すことはなく、細菌感染との鑑別においてCRPなどの他のマーカーと比較して有用であると多くの報告があります。
 気道感染、とくに下気道感染は死亡原因としてだけでなく、入院加療を要する病態として重要ですが、その多くはウイルス感染であるにもかかわらず抗菌薬が一般的に使用されています。プロカルシトニンを指標として治療を行うことにより、不必要な抗菌薬投与を減少し、また、転帰を悪化させないことが報告されており、医療経済や耐性菌発現の抑制にもつながる可能性が示唆されています。

ステロイド投与症例における細菌感染症重症度判定における有用性

 近年、敗血症性ショックなどにその有用性が示唆され、機能的副腎不全の考え方の導入とともに敗血症診療におけるステロイドの使用頻度は増加しつつあります。しかし、ステロイドは、白血球数や体温、CRPの変化に影響を与え、サイトカインなどの炎症性メディエーターの発現を抑制します。
 私たちは、ステロイド投与中で細菌感染症が疑われた症例を対象として、重症度評価の指標としてのCRPとプロカルシトニンを比較検討しました。重症度判定の指標であるSOFAスコア、APACHE II スコアとCRPには有意な関係はありませんが、プロカルシトニンとは正の相関関係が認められました。さらに、敗血症性ショック例では、非敗血症性ショック例との比較で、プロカルシトニンのみが有意に高値を呈しています。ステロイド投与を行っている細菌感染症症例の重症度判定においても、CRPより有用であることが考えられます。

細菌感染症と重症敗血症鑑別のカットオフ値

 本邦においても感染症が疑われる、あるいは感染症と診断された265例を対象として多施設共同の検討が行われており、細菌感染症の鑑別診断におけるプロカルシトニンのカットオフ値は0.5ng/mLが適当であるとされます。また、何らかの臓器不全や循環不全を合併した重症敗血症では2.0ng/mLを越えることが多くなります。敗血性ショック症例では多くの場合、10.0ng/mLを超えます。
 最近、下気道感染症を対象として、プロカルシトニンをマーカーとして、抗菌薬投与の適応判断を行うという試みがなされています。集中治療室への入院を必要とするような患者さんでの細菌感染症の鑑別においては0.5ng/mLをカットオフ値とすることが示されていますが、外来での下気道感染症患者さんへの抗菌薬投与に関しては0.25ng/mLをカットオフ値として、これよりも高値であれば抗菌薬の適応とする報告も複数あり、今後の検討が必要と考えられます。

プロカルシトニンは敗血症診断のマーカーとして理想的か?

 プロカルシトニンはCRPや従来のマーカーと比較して、細菌感染症の診断とその重症度判定に優れ、全身性炎症反応を伴う細菌感染症に特異性が高いと考えられます。しかし、単独の指標として用いてすべての細菌感染症の鑑別診断をできるほど感度、特異度ともに満足できるものではありません。しかし、今後、他のパラメーターや臨床経過を組み合わせて用いることにより、プロカルシトニンは敗血症診療の臨床において欠くことのできない重要なマーカーのひとつとなるものと思われます。

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