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Abbott A Abbott Japan Abbott: A Promise for Life
アボット感染症アワー
ラジオNIKKEI 2008年5月23日放送

呼吸器ウイルスの流行期と地域性

沖縄県立中部病院 小児科 真喜屋智子

RSウイルスの診断

 RSウイルスは冬の呼吸器感染の代表的なウイルスです。主に、気道分泌物を介して接触感染し、潜伏期間は2~8日間といわれています。2歳までにほぼ100%初感染を受けますが、一度の感染では終生免疫は獲得されず、再感染を繰り返します。成人や年長児では、比較的軽い上気道症状でおさまることが多いのですが、30%~40%で下気道感染を発症し、1%~3%は入院治療が必要となります。特に、早産児や慢性肺疾患、先天性心疾患を有する場合、重症化し、致命的となることがあり、周産期医療にかかわる者にとっては大変重要なウイルスです。
 RSウイルスの診断には、迅速診断キットによる抗原検出法が広く用いられています。この検査法は、簡便で、感度・特異度とも90%をこえる大変有用な検査ですが、今のところ3歳未満の入院例のみ保険適応となっています。ペア血清を用いた血清学的検査法は、迅速診断に比べると感度が低く、また、抗体産生能力の弱い乳幼児では陽性率が低い傾向があります。しかし最近、再感染が疑われる年長児では逆に、迅速診断の陽性率が低く、抗体価の測定が有用だったとの報告がでています。これは、RSウイルスに対する中和抗体をすでにもっている年長児では、ウイルスの増加が抑制され、抗原陽性率が低下するためではないかとされています。臨床の現場では、これらの検査を組み合わせ診断を行っています。

RSウイルスの治療

 RSウイルス感染症には特異的な治療法がないため、これまでは、対症療法にたよるしかありませんでした。その後、RSウイルスモノクローナル抗体であるパリビズマブが開発され、日本では、2002年から早産児に対してパリビズマブの投与が保険適応となりました。海外の多施設共同研究では、パリビズマブにより入院率が10.6%から4.8%に減少したとの報告が出ました。これをうけて、当院でも2002年から、パリビズマブの投与を開始しました。
 パリビズマブは、流行期に毎月投与することで重症化予防が期待できます。RSウイルスは、これまでの報告から、日本など温帯地域では、11月から4月の冬に流行することが知られており、他府県では10月頃からパリビズマブの投与を開始していました。2002年のパリビズマブのファーストシーズンは、沖縄県の疫学データがなかったため、私達も他府県と同様に、11月からパリビズマブの投与を開始しました。ところが、投与終了後の夏に、RSウイルス患者が多発し、他府県との流行の違いを感じていました。

当院のRSウイルス流行状況調査

 沖縄県は日本で唯一、亜熱帯地域に属します。年平均気温は22.4℃で、寒暖の差が少なく、年間降水量は2000mmにのぼります。このような気候では、RSウイルスの流行のパターンが他府県とは異なるのではないかと考えました。そこで、沖縄県におけるシナジスの適切な投与時期を決定するために、当院のRSウイルスの流行状況を調査しました。
 沖縄県立中部病院は、沖縄県の中央部に位置し、地域の拠点病院として機能しています。併設する救急センターは24時間体制で患者を受け入れており、当院の流行状況は、沖縄県のRSウイルスの疫学を反映していると考えます。
 2005年~2007年の当院における3歳未満のRSV迅速診断の結果を示します。総検体数はのべ3200例、陽性数は615例でした。調査の結果、沖縄県では毎年3~4月と8~9月ごろ二峰性に流行のピークがあり、他府県で流行期と言われている11月~2月は逆に陽性率が最も低くなっていることがわかりました。
 他府県のRSウイルスの疫学データと比較してみると、流行パターンが大きく異なるのがわかります。一般的に、「RSウイルスは冬のウイルス」といわれていますが、沖縄県では「季節に関係なく、いつでもみられ、特に夏に流行するウイルス」なのです。
 RSウイルスの疫学に関しては様々な推測がなされています。日本など温帯地域では、平均気温の下降と関連して流行が始まるといわれていますが、海外からは、熱帯地域では通年性に流行するという報告や、雨季に流行するという報告もあります。近年、RSウイルスの活性は、気温が6℃以下と24℃以上のときに二峰性に高くなるとの報告が出ました。このウイルスは、湿度40%のときに最も安定化するため、沖縄県のように高温多湿の環境では、冬ではなく、雨が多く気温の高い夏に流行するのではないかと考えられます。
 この流行状況の結果を受け、現在当院では季節に関係なく、NICU退院時よりパリビズマブの投与を開始しています。投与終了の時期に関しては、流行状況をみながら個々に応じて決めています。

集中治療を要した症例の調査

 次に、集中治療を要した患者について調査しました。2004年から2006年にICUまたはNICUで管理を要したのは12例でした。年齢は0ヶ月から16ヶ月でした。人工呼吸管理を要したのは5例で死亡例はいませんでした。当院では、新生児期の重症管理は、再入院であってもNICUで行うこともあるため、ICUとNICUの入院を含めて検討しています。12例中9例が生後6ヶ月以下の患者で、1例を除き基礎疾患のない成熟児でした。沖縄県の流行にあわせたパリビズマブの投与によって、適応となっている早産児や心疾患、慢性肺疾患患者の重症化が防げていると評価しています。むしろ適応のない成熟児で、生後6ヶ月以下の症例が重症化していました。RSウイルス感染では、痰が粘稠で非常に多く、長く続くのが特徴です。特に気道の細い生後3ヶ月以下の乳児では、痰により無呼吸や無気肺を起こしやすく、厳重なモニタリングや頻回の理学療法が必要となります。今回の調査でも、12例中7例で無気肺が出現していました。成熟児へもパリビズマブを全例投与するとなると、コストベネフィットに見合わないと思いますが、リスク因子を絞り込めれば、将来、成熟児へもパリビズマブの適応が広がるかもしれません。
 そのほか、神経筋疾患や、気管切開、経管栄養を行っている患者も入院が長期化する傾向がありました。現在、このような神経筋疾患や免疫不全患者へパリビズマブの適応が拡大されつつあります。

 以上、沖縄県のRSウイルス感染症の現状をお話しました。今後も疫学調査を続け、沖縄県の現状を明らかにしていきたいと考えています。

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