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アボット感染症アワー
ラジオNIKKEI 2008年4月18日放送

欧米型B型急性肝炎について

名古屋市立大学大学院医学研究科臨床分子情報医学分野 教授 溝上雅史

オーストラリア抗原の発見

 1963年、ブランバーグ博士は、オーストラリア原住民の血清中から新しい人の同種抗原を発見し、オーストラリア抗原と命名しました。当初は、白血病患者にこの抗原やその抗体が多発することから白血病の原因、または、それに関与する物質として報告されました。
 その後、大河内先生らにより輸血後肝炎との関係が明らかにされ、さらに、このオーストラリア抗原は、B型肝炎ウイルスの表面抗原と同一であることや、このB型肝炎ウイルスが肝がんを引き起こすことも明らかになり、1976年にノーベル賞を授与されました。
 その後、B型肝炎ウイルスの遺伝子配列が決定され、約3200の塩基からなる部分二重鎖DNAウイルスで、その遺伝子配列は4つの特異蛋白、S領域、C領域、P領域、X領域から構成されていることが明らかになりました。
 S領域はHBVの表現抗原であるHBs抗原を、C領域はHBVのコア抗原を、また、その一部が切り離されてHBe抗原となる。Xは蛋白としては確認されていますが、その機能は現在に至るも不明です。しかしながら、肝がんとの関係が疑われています。P領域はポリメラーゼで、増殖にかかわる重要な領域ですが、普通のDNAポリメラーゼと異なり、エイズの逆転写酵素と同様な機能を持つために非常に早く変異しやすく、その変異の早さは約1万倍も早いとされています。このことはエイズ用に開発された逆転写酵素阻害剤がB型肝炎の治療に応用されている理由です。
 しかしながら、エイズ同様に遺伝子変異が非常に早いために、逆転写酵素阻害剤への薬剤耐性ができやすいという側面もあり、現在、この薬剤耐性は治療上の大きな問題となっています。

B型肝炎ウイルスによる感染症

 B型肝炎ウイルスは世界中で約20億人の人が一生に一度は感染し、その結果、約4億人がB型肝炎ウイルスを一生持つ持続感染者になり、年間約50万人がこのB型肝炎による劇症肝炎、肝硬変、肝がんで死亡していると推定され、世界の死亡原因の第7番目に位置しているとWHOは報告し、現在も依然として世界的に、特にアジアにおいて、公衆衛生上大きな問題となっています。
 臨床的には、B型肝炎ウイルスに感染すると、急性感染、劇症肝炎、持続感染の三つの病態に分けられますが、世界的には地域により異なる臨床像を示すことが知られていました。
 我が国や中国が位置する東アジアにおいては、B型肝炎ウイルスの急性肝炎は成人の初感染に多く、現在ではほとんどが性感染症と考えられています。一過性に感染し、完全に治癒するか、約1%が劇症肝炎に進展し、約80%が死亡します。それに対し、3歳以下の乳幼児期の初感染(いわゆる母子感染)は、ほとんどが慢性化し、持続感染者になります。そして、慢性化したHBVキャリアのうち、約80%~90%は30歳以下で一過性の肝障害を起こし、HBe抗原からHBe抗体に自然に変化し、HBVは持っているが肝臓は悪くならない無症候性HBVキャリアとなります。
 一方、約10%~20%の人はHBe抗原や肝障害が持続します。そして、これらの人たちが50歳以降肝硬変や肝がんに進展する確率が高くなります。また、これらの人たちへのインターフェロンの治療がほとんどきかないのが現状です。
 一方、欧米においては、B型肝炎ウイルスによる感染は、母子感染は少なく、ほとんどが成人の水平感染で、特にSTDとして感染し、約10%の人たちが慢性化するとされています。しかし、これらのHBVキャリアはインターフェロンへの反応性がよく、さらに肝がんへの進展はほとんど認められないと報告されています。

B型肝炎ウイルスの遺伝子配列と地域的特長

 1980年代以降、B型肝炎ウイルスの遺伝子配列が世界各地で解析され、多数の塩基配列が国際版データベースに登録されました。そこで、我々は、これらの配列をそれまで人類学や生物学で使用されてきた遺伝子配列の違いを統計的、数学的に解析する方法(これを分子進化学的解析法といいます)で解析したところ、世界中のB型肝炎ウイルスはAからHまでの8つの遺伝子による型( genotype)に分けられることができました。
 さらに興味深いことに、アジアは主にBとC、アフリカはA、西アフリカはE、欧米はAとD、そして南米はFとHというように、これらの genotype は世界各地により分布が大きく異なっていました。このことはアジア、欧米、アフリカにおける世界各地のHBVの臨床像の違いは、今まで言われていた免疫や人種の違いよりも、B型肝炎ウイルスのgenotype による違いという可能性が考えられてきました。
 一方、本邦のB型肝炎ウイルス感染の現状は、日赤の初回献血者の検討では、50歳以上は約1~2%の感染者が存在しますが、若い年代はいろいろな対策が講じられた結果、順調に低下してきており、B型肝炎ウイルスの母子感染予防が始まった1986年以降出生年齢以下では0.02%まで減少し、従来の対策がうまくいっていることを示しています。しかしながら、このことは、これらの人たちが将来感染する可能性があるということでもあります。
 また、現在の日本の国際化も経済を中心に、とどまるところを知らない状態です。現在、日本は年間約2000万人が海外に出国し、約700万人が海外から来日する状況にあり、日本に存在しないB型肝炎ウイルス genotype に感染する可能性が十分に考えられます。特に欧米に多い genotype Aに感染すると、約10%は慢性化するとされていますので、国内外でSTDにより感染する可能性は高く、約10%といえども感染すれば、それらの人が核になり、本邦の中で新しいHBV感染を広げることになります。
 そこで我々は全国の肝臓専門医の共同研究者にお願いして、この20年間の本邦における急性B型肝炎の genotype の推移とその慢性化について検討しました。その結果、全国どの地域でも本来本邦に存在しない外国型の急性B型肝炎が存在していました。特に東京・東海・関西の大都市圏では、約3割から45%が外国型の genotype でした。

B型肝炎の感染原因と予防対策

 次に、これらの急性B型肝炎の原因を検討しましたところ、30年くらい前までは非常に多かった針刺し事故や輸血はこの10年はほとんど認めず、ほとんどがSTDが原因でした。
 さらに、 genotype の年代別推移を検討しましたところ、急性B型肝炎の20~30%は外国型でした。さらに、特徴的なことは、この20年くらいの間にアジアに多い genotype から慢性化を引き起こす欧米型が順調にふえてきておりました。
 さらに、急性B型肝炎の大きな問題は慢性化することでありますが、日本人でも欧米型の genotype に感染すると、約10%が慢性化することが確認されました。
 従来の本邦のHBV感染予防の主流である母子感染予防対策に主眼を置く現在の方策だけでは将来対応できない可能性が考えられますので、エイズと一緒になったSTD感染予防の対策やHBワクチンの今後の政策の検討を進める必要があると思われます。

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