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Abbott A Abbott Japan Abbott: A Promise for Life
アボット感染症アワー
ラジオNIKKEI 2007年7月6日放送

海外渡航前に知っておきたいマラリアの知識Up to date

結核予防会新山手病院 第二内科長 木村 幹男

 マラリアは、基本的には日本国内での感染はありませんが、一歩日本から外へ出ると流行している国は沢山あって、世界で100カ国に達します。そして、世界全体で1年間にかかる人は5億5000万人、死亡する人は100万人以上と推定されています。したがって、マラリア流行地へ出かける人には十分な注意を与える必要があります。

マラリアの特徴

 4種類のマラリアのなかで、最も重要なのは熱帯熱マラリアです。何故ならば短期間で重症化し、ときには死亡することもあるからです。これを重症マラリアと呼びますが、重症マラリアにみられる合併症として、脳症、急性腎不全、肺の疾患(肺水腫/ARDS)、さらにDIC様出血傾向、酸血症/代謝性アシドーシス、重症貧血などがあります。また、熱帯熱マラリアでは薬剤耐性が大きな問題であり、治療に難渋することも多々あります。他には三日熱マラリア、卵形マラリア、四日熱マラリアがありますが、熱帯熱マラリアと比べると、重症化することはほとんどないと言えます。
 マラリアの分布地域については、世界保健機関すなわちWHOや他の機関が示した世界地図などが出回っています。しかしそれ以外にも、その時々で生じている変化を把握することも必要になります。例えば、旅行者が今まであまりマラリアに罹らなかった地域で、ある時からマラリアにかかる例が増えることもあります。これらの情報を入手するには、電子メールでの配信システム(例えばProMED)、あるいは欧米の会社が作成した有料のWebプログラムなどが役に立ちます。

マラリアの予防

 マラリア流行地へ出かける渡航者へのアドバイスとしては、蚊に刺されないような注意、すなわち防蚊対策が基本です。マラリアを媒介するハマダラカは暗い時間帯に活動しますので、日没から夜明けの時間帯に外出を避けることです。そのような時間帯にどうしても外出するのであれば、長袖服・長ズボンの着用を勧めます。また、皮膚の露出部位には昆虫忌避剤(いわゆる虫除剤)を使います。宿泊する部屋については、エアコン付きで密閉が可能な部屋を選び、室内では蚊取線香や電気式蚊取器を使います。また蚊帳の中に寝るのは効果的ですが、蚊帳とベッドなどとのすき間から蚊が侵入しないようにする必要があります。この様な防蚊対策を徹底すれば、マラリアに感染することは相当程度防げます。しかし一方では、これらの対策は徹底できないことも多いことを知っておく必要があります。従って、マラリア中でも危険な熱帯熱マラリアが多いサハラ以南アフリカなどへ行く場合には、予防内服も積極的に考慮すべきであると思われます。
 予防内服を勧めるべきであるかどうかについては、滞在地、季節、滞在期間、旅行方法や宿泊場所(たとえばビジネスで一流ホテルに宿泊、あるいはバックパッカーなどによる簡易宿泊)などからマラリアにかかるリスクを判断し、また医療機関へのアクセスなどから、かかった場合に重症化するリスクを判断します。この様なリスク評価には、専門的な知識や経験が必要となることも多々あります。

マラリアの予防薬

 マラリア予防薬として、現在世界的に主流となっているのは3種類であり、すなわちメフロキン、ドキシサイクリン、アトバコン/プログアニル合剤です。しかし、その中で我が国で承認・認可されているものはメフロキンだけです。ドキシサイクリンは我が国では、細菌およびリケッチア感染症の治療薬として認可されていますが、マラリア予防には認可されておりません。また、アトバコン/プログアニル合剤は我が国では承認薬ではありません。この3剤の予防効果はほぼ同程度で優れており、いずれも90%を超える効果があります。ただしメフロキンについては、特別な地域ですがタイとミャンマーの国境地帯、タイとカンボジアの国境地帯ではかなり耐性が出現しています。
 マラリア予防薬については、副作用が全くないと言うわけには行きません。特にメフロキンの場合、精神神経系副作用がよく取り上げられます。しかし、それが誇張されるあまり、マラリアのリスクが高いにもかかわらず服用しないで出かけて、みすみす命を失うこともあります。医療従事者自身も、マラリア流行地へ出かける渡航者の相談を受ける場合、メフロキンの副作用に過剰の拒否反応を示すのでなく、マラリア特に熱帯熱マラリアにかかるリスク、かかった時に重症化するリスクも正当に判断して、バランスのよい形でアドバイスを行う必要があります。最近ではメフロキンの副作用についてかなり分かってきております。副作用が起きるとすれば殆どが最初の3回の服用までに起こること、同時に深酒をしたり、いわゆるrecreational drugsと呼ばれる薬剤との併用で起きやすいこと、女性に起きやすいことなどが挙げられます。メフロキンを初めて服用する人には、マラリア流行地に入る2~3週間前から開始するのが勧められますが、それはもしも副作用が出るとすれば、殆どは出かける前に出ることになり、現地で出るよりも対処がしやすくなるからです。もちろん、うつ状態、痙攣などの既往歴や現病歴がある人はメフロキンの服用を避けるべきです。

マラリアのスタンバイ治療

 予防内服ではなく、マラリアにかかったらしい時に渡航者自身の判断でマラリアとしての治療を行なう方法があり、スタンバイ治療と言います。 スタンバイ治療に当たっては、その条件をきちんと理解することが必要です。対象となるのは、マラリア流行地に入って7日以上経って38℃以上に発熱した場合です。これは、マラリアの潜伏期が最短でも7日かかるためです。次に、発熱が始まってから24時間以内に医療機関を受診できない場合です。24時間以内に受診できるのであれば、スタンバイ治療でなく医療機関の受診を優先させます。ただし、現地には信頼性に不安のある医療機関もありうるでしょうから、「24時間以内に信頼できる医療機関を受診できない場合」と言い換えることもあります。また、スタンバイ治療を行なえばそれで安心と言うものでなく、その後も医療機関を受診すべく努力する必要があります。何故ならば、マラリア以外の発熱と言うこともあり、その場合には他の疾患の治療が必要です。またマラリアであったとしても、その時使用した抗マラリア薬が効いていないこともあり得ます。一般には、マラリアにかかるリスクが高いときには予防内服が勧められ、スタンバイ治療はマラリアのリスクが低いときに勧められるのが普通です。しかし、マラリアのリスクが高くても予防内服を嫌う人もあり、そのような場合などではスタンバイ治療を考慮する必要もあります。いずれにしても、スタンバイ治療は、特殊の状況で行う医療行為であり、我が国では法的な扱いが確立されていないこともあるので、それを渡航者に対して勧めたり、指導したりするのは、旅行医学あるいは熱帯病に詳しい医療従事者のみであるべきと考えます。

日本の旅行者のためのマラリア予防ガイドライン

 我が国では2001年の終わりに、始めてメフロキンがマラリア予防薬として認可されました。そこで、我々マラリア予防に関わっている関係者が20回以上も会議を開き、「日本の旅行者のためのマラリア予防ガイドライン」を発行しましたので、ご参考にして頂ければと思います。マラリア予防に当たっては多くの因子を考慮に入れる必要があります。海外渡航に伴う健康問題を専門に扱う分野として、最近では旅行医学、英語でTravel Medicineと言う専門分野が独立していますが、この旅行医学の中ではマラリア予防について常にホットなディスカッションがされています。

帰国後マラリアが疑われる場合には

 最後に、帰国してからマラリアが疑われる場合のことについてお話します。我が国ではマラリアの症例数が少ないために、その診断や治療に慣れた医療機関はわずかしかありません。私が本年度から主任研究者を務めている略称「熱帯病治療薬研究班」では、マラリアを含む輸入感染症の診断や治療に関する相談も引き受ける方向で活動していますので、必要な時には活用されることをお勧めします。
 マラリア、特に熱帯熱マラリアは診断や適切な治療がわずかに遅れるだけで重症化し、あるいは致命的になることを忘れずにいただきたいということを最後に強調しておきたいと思います。

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