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山口大学医学部附属病院薬剤部助教授 尾家重治
「薬のあるところに薬剤師あり」を確固たるものにするには,ジェネラリストとしての薬剤師であることに加えて,スペシャリストとしての薬剤師でなければなりません.このような観点から,日本病院薬剤師会では,各種の専門薬剤師を育成していくことになりました.そして,その第一弾として,感染制御専門薬剤師の認定を平成17年度から開始しました.
感染制御専門薬剤師の認定条件ですが,特例による過渡的措置では,病院薬剤師歴が5年以上でインフェクションコントロールドクター(ICD)の資格を有するなどの条件を満たす計17名を,認定試験なしで平成17年11月に認定しています.
次に特例以外の認定では,認定試験に合格して,かつ書類審査をパスした者が認定されます.書類審査での認定条件は,病院薬剤師歴が5年以上であることや,論文が2編以上あって,うち1編は筆頭著者であることなどです.
第1回目の講習会および認定試験は,平成18年1月に東京で開催され,163名が認定試験に合格しました.そして,163名のうちの約1/3が書類審査を受けて,これらのうちの35名が感染制御専門薬剤師に認定されました.わが国には病院薬剤師が約3万4千人いますが,平成17年度は感染制御専門薬剤師が特例と合わせて計52名誕生したことになります.
インフェクションコントロールチームにおいて感染制御専門薬剤師がはたすべき役割として,おもに3つのことがあげられます.1つは,医薬品の微生物汚染の防止,1つは抗菌薬の適正使用の推進,またもう1つは消毒薬の適正使用の推進です.
まず,1つ目の医薬品の微生物汚染の防止について述べたいと思います.医薬品の微生物汚染は,患者様に払い出す時点では通常問題となりません.しかし,患者様への投与時点では問題となることが少なくないのです.たとえば,経腸栄養剤ですが,液状製品の場合はもともと無菌で,粉末製品であっても溶解後は1mL当り1個程度の菌が検出される程度です.しかし,患者様へ投与終了直後の投与残液を調べてみると1mL当り100万個もの細菌が検出されることがまれではありません.汚染原因の多くは投与バッグの不衛生な管理です.すなわち,投与バッグや投与チューブを水洗いして,その後に乾燥したつもりを行ってくり返し使用すると,投与バッグや投与チューブの内側が不潔になり,結果として経腸栄養剤の高濃度細菌汚染を招くのです.
実際,山口県下の11病院で,経腸栄養剤の投与容器の管理法について調査したところ,11病院中9病院が投与バッグや投与チューブを水洗して,乾燥させたつもりでくり返し使用していました.これらの9病院の経腸栄養剤の投与残液を調べてみると,調べた28サンプルすべでが1mL当り100個から1億個の細菌汚染を受けていました.そこで,投与バッグや投与チューブを水洗後に次亜塩素酸ナトリウムで消毒するように改めたところ,経腸栄養剤の細菌汚染はみられなくなりました.
このように,経腸栄養剤は薬局から払い出す段階ではまったく問題ないのですが,患者様への投与段階では高濃度細菌汚染を受けていることがあるのです.わが国では,高カロリー輸液の細菌汚染についてはよく気を付けられているのですが,経腸栄養剤はとかく安易に管理されているのが現状です.しかし,経腸栄養剤が1mL当り1万個以上のグラム陰性桿菌で汚染を受けると,腹部膨満感などの胃腸障害のみならず敗血症や肺炎の原因になることが判明しています.
インフェクションコントロールチームにおいて薬剤師がはたすべき2つ目の役割として,抗菌薬の適正使用の推進があげられます.抗菌薬は汎用されるため,エビデンスも多くありますが,臨床現場ではエビデンスを無視した使われ方も少なくありません.たとえば,腸管出血性大腸菌感染症(いわゆるO-157感染)にホスホマイシン注射剤が処方された例がありましたが,ホスホマイシン注射剤は腎排泄型なのでO-157感染には適しません.このようなエビデンスを無視した使われ方がなされていれば,薬剤師は医師に疑義照会して処方変更を求める必要があります.
一方,副作用の観点から,抗菌薬の誤った処方例を経験することもあります.たとえば,生後2か月の乳児のMRSAによる関節部位感染に,バンコマイシン注射剤とアルベカシン注射剤の併用が処方されていた例がありましたが,バンコマイシンとアルベカシンとの併用ではMRSAに対する相乗効果が得られないのみならず,腎毒性が増強され,危険な状態を招きます.また,MRSA感染ではなくて定着だけしている患者さんにバンコマイシン注射剤が処方されている例も少なくありません.しかし,MRSAの定着にバンコマイシンを用いることは患者様にとって何の利益もないばかりか,バンコマイシンによる副作用発現の危険性が生じてくるのです.手術予定がある場合ではMRSA定着患者にバンコマイシンを使用することもありますが,手術予定がなければ,バンコマイシンは不要です.他の患者様へのMRSA伝播に対して,医療スタッフが気を付ければよいのです.
インフェクションコントロールチームにおいて薬剤師が果たすべき3つ目の役割として,消毒薬の適正使用の推進があげられます.消毒薬は,他の医薬品と異なり,とかく誤った管理や使用法がなされていることが稀ではありません.たとえば,手術室の看護師から,環境消毒の際に涙が出てくるとの相談を受けたことがあります.その現場に行ってみると,手術室の床消毒をグルタラール製剤を用いて行っていたのです.米国の文献には,もしグルタラールを床にこぼした場合には,窓をあけて,防毒マスクを着用してグルタラールを拭き取るべきとの記載があるのですが,そのような消毒薬であるグルタラールによる床清拭を行なっていた例です.グルタラールを内視鏡消毒に用いるのはよいのですが,清拭法で用いるのは誤った使い方といえます.また,手術室のナースから,医師が臭いボックスを手術室にもってくるので困っていると相談を受けたことがあります.いわゆるホルマリンボックスに関節鏡や膀胱鏡を入れて手術室に運んで来ていたのです.そこで,このホルマリンボックス内のホルムアルデヒド濃度の測定を行ってみたところ,ホルムアルデヒド濃度は500ppmで,致死量の10倍の濃度でした.このような高濃度のホルムアルデヒドが入ったボックスを,換気の悪い手術室にもっていくことは絶対に避けなければなりません.そこで,ホルマリンボックスの有害性について,医師に説明して,ホルマリンボックスの使用を中止してもらいました.
最後に,感染制御専門薬剤師の今後の予定について述べます.
今後は年1回,東京で講習会ならびに認定試験を行う予定です.毎年50名~100名ほどを認定して,最終的には必要とする各病院に1名の感染制御専門薬剤師が配置されることが目標です.
また,認定を受けた専門薬剤師は,研修などを通じてさらに知識を深めるとともに,5年ごとの認定更新を受ける予定になっています.さらに将来的には,在宅医療の進展も踏まえ,開局薬剤師との連携も深めていきたいと思います.