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アボット感染症アワー
ラジオNIKKEI 2006年6月2日放送

外科処置に伴う感染の予防と対策

東邦大学第三外科助教授 草地 信也

外科処置における感染予防

 外科領域で、交差感染を起こしやすい菌は、MRSA、緑膿菌、Serratia、Enterobacter、などである。これらの細菌に共通する特徴は、多剤耐性菌であったり、もしくは多剤耐性化を来しやすかったり、いわゆる難治性感染症を起こしやすい菌である。
 これらの細菌の感染様式を見ると、MRSAは、呼吸器感染では飛沫感染を起こすと言われているが、主には接触感染である。よって、外科処置に伴う感染を予防するためには、接触感染対策が最も重要です。
 ここでは、手術創の管理、感染創の管理、ドレーンの管理に着いて述べ、最後に、このような外科処置に伴う感染を予防するために、私どもで行っているマニュアルをお示しいたします。

手術創の管理

 まず、手術創の管理について、正常な手術創と感染創にわけて、その管理方法をお話し致します。まず、正常な手術創です。
 一時縫合された創の治癒過程は、まず、切開後48時間までには局所の好中球浸潤や免疫グロブリンを含む浸出液によって創面が清浄化され、創傷治癒に好適な環境が作られるます。やがて、縫合後72時間以内に皮膚接合面が接着します。その後、線維細胞が急速に増加し、創面の接合が強化されます。このような創傷治癒機転から考えると、縫合から48-72時間は創部から滲出液が出るために、これらを吸収し、かつ外部から細菌が侵入しないような密閉したドレッシング材が必要となる。しかし、それ以降はすでに創面の皮膚が接着されていることから、創の外から細菌が創のなかに侵入することは考えられないので、創の消毒やドレッシング材による被覆も必要ではない。よって、以後、抜糸まで創の状態を毎日観察しますが、創を被覆する必要はないと考えます。このような管理を行うと、毎日の創の処置を必要とする患者さんの数が減りますので、その時間を他の業務に振り分けることが出来ます。

感染創の管理

 感染創には、消化管瘻を伴った感染創と消化管瘻を伴わない感染創があり、その処置に大きな違いがあります。いずれの感染創管理においても、その基本は、細菌を含む壊死組織の除去と湿潤環境を保つことです。細菌を含む壊死組織の除去には、機械的に切除しデブリードマンする方法と、アルギン酸カルシウム製剤により化学的に吸着しさせ、除去する方法、創部を洗浄することによって最近や壊死物質を除去する方法があります。創部の洗浄には注射用生理的食塩液が用いられます。この際に、消毒液を加えることは、創の創傷治癒機転を障害し、壊死を助長させ、治癒を遅延させるので、注意する必要があります。なにより、消毒薬は一般に、蛋白に接するとその活性が著しく低下し、殺菌作用は期待できないとされています。また、抗菌薬を局所に用いると、耐性菌が出現し易くなり、また、アレルギー反応などで創傷治癒が障害される事があります。
 まず、消化管瘻を伴わない感染創の管理についてお話し致します。
 消化管瘻を伴わない感染創は、まず、大きく創を開放として前述の方法で洗浄します。洗浄後は、創面は消毒せず、創の周りの皮膚のみ消毒し、アルギン酸カルシウム製剤を塗布または接着させる。その上からフィルムドレッシング材で被覆し、密閉閉鎖します。感染組織が十分に除去されたら、ハイドロコロイド材を密着させ、湿潤した生食ガーゼとともに閉鎖ドレッシングを行います。
 次に、消化管瘻を伴う感染創の管理についてお話し致します。
 消化管瘻を伴う感染創の管理では、まず、消化液が創面に接しないように、ろうこうの近くに低圧持続吸引用のチューブをおきます。消化液が創面に接しないように生食ガーゼを敷き、さらにドレーンの上から生食ガーゼをかぶせ、その上に、皮膚保護剤をのせ、ドレーンに隙間はペーストで密閉し、フィルムドレッシング材で完全に密閉します。

ドレーンの管理

 ドレーンの意義は大きく二つに分けられ、インフォメーションドレーンと呼ばれる、術後早期の出血や大きな縫合不全をいち早く察知するためのものと、縫合不全による腹腔内感染や腹腔内膿瘍の予防目的で留置されるドレーン、である。前者は、通常、術後24時間程度で抜去される。これらは、ペンローズタイプの開放型ドレーンが用いられることもあるが、開放型のドレーンは逆行性感染を招く危険性があり、次に述べる閉鎖式ドレーンを用いることが多い。ペンローズドレーンを用いた場合には、なるべく早く抜去すべきでです。
 縫合不全による腹腔内感染や腹腔内膿瘍の予防目的で留置されるドレーンは閉鎖ドレーンが基本であり、さらに、胸腔ドレーンや縦隔ドレーンでは積極的に持続吸引をかけることがあります。ドレーンの材質が感染を引き起こすことは極めて稀であるが、ドレーンの留置部位、閉鎖か開放か、また、自然排液か持続吸引をかけるかによって意見が分かれます。開放ドレナージで自然排液を目的としたドレーンには、ペンローズタイプのドレーンがあり、閉鎖ドレナージで持続吸引をかけるドレーンにはヂュープルドレーンがある。また、両者の中間的な作用を持つ、マルチタイプのドレーンもあります。

創処置における手指消毒

 手指消毒の励行が叫ばれていますが、そのコンプライアンスが低く、十分に遵守されているとはいいがたいのが現状です。これは、米国においてもしかりであり、院内感染対策は曲がり角に来ているといえます。私の病棟では、手指消毒の遵守率を高めるために、創処置時の手指消毒のタイミングを明確に示した、マニュアルを作りました。
 このマニュアルを作るに当たり、現場の意見を重視し、実際に毎日創処置を行っている若手医師や看護師が無理なく実行できるマニュアルを作りました。
 その要点は、処置を行う医師と介助する看護師の間で、不潔操作を医師が担当し、介助看護師は清潔操作に徹するものである。そして、両者とも、他の患者から処置を行う患者への細菌の持ち込みと次の患者への菌の持ち出しを予防すること、また、消毒薬による接触皮膚炎を予防するために、手指消毒の回数をなるべく少なくすることを基本としています。

 具体的には、

 1.入室時、包交ワゴンを引いて患者さんの前に行くまでは手指消毒不要
            ↓
 2.包交処置の準備ができたら、介助者と処置者は手指消毒する
            ↓
 3.処置者は患者さんの寝間着をはずし、ドレッシング材を露出させる
            ↓
 4.処置者は手袋を着用し、ドレッシング材を除き、創を処置する
            ↓
 5.不潔操作はすべて処置者が行う
            ↓
 6.介助者は清潔操作に徹する
            ↓
 7.処置者が創部をドレッシング材で被覆したら、介助者がテープで固定する
            ↓
 8.処置者は不潔材料を感染性廃棄物として処理し、その後、手袋をはずす
            ↓
 9.介護者と処置者は手指消毒する
            ↓
 10. 次の患者へ移動するというものです。

このようなマニュアルを実行してから、外科病棟から分離されたMRSAは、ゲル電気泳動法でみると、すべて異なった型を示し、交差感染が予防できました。
本日は、外科処置の具合的な方法と手指消毒のマニュアルについてお話し致しました。

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